簿記の基本(7)取引と記帳のタイミング
1 取引とは
簿記をやっていると頻繁に使われる用語に取引(とりひき)というものがありますので,ここで少し詳しくお話ししたいと思います。簿記や会計でいう取引とは一般的な商取引などと少し異なっていて,記帳すべきことがらのことをいいます。
例えば会社が他の会社と何らかのビジネス上の契約をしたら,通常は取引が成立したと考えますが,それだけでは帳簿に記帳すべき事項が無いため,簿記上の取引とはなりません。
一方で,従業員に給料を支払っても一般的には取引とはあまり言いませんが,これはもちろん帳簿に記帳されることがらなので取引ということになります。
2 発生とは
簿記の世界でよく使用される用語に発生(はっせい)というものがあります。これは記帳すべき取引が生じることと考えてよいでしょう。取引と発生を組み合わせて,「取引の発生」と言ったりします。
3 記帳のタイミング
企業において日々,様々な経済活動が行われていますが,いったいどの時点で帳簿に記帳すべきかという点を押さえておきましょう。
帳簿への記帳のタイミングは,実際に商品やサービスの提供があったり,金銭の支払いや受け取りがあったときとするのが基本です。簿記や会計ではこの時点で取引が発生したと認識するわけです。
商談や契約の成立 ・・・・ 簿記では取引は発生していない=記帳しない
↓
商品やサービスの提供 ・・・・ 取引が発生した=記帳する
↓
代金の支払いまたは受け取り ・・・・ 取引が発生した=記帳する
4 簡単な練習問題
いくつか事例を挙げましたので,簿記上の取引が発生したものとして記帳されるものなのかどうか考えて下さい。
物,サービスの提供や移動,現金や預金の移動を基準にするとわかりやすいでしょう。
①他社に商品を販売する契約を結んだ。
②商品の注文を受けた。
③商品を出荷した。
④商品の代金が普通預金に振り込まれた。
⑤現金で交通費を支払った。
⑥土地を購入した。
⑦営業用の自動車を修理してもらった,代金は来月支払う予定。
⑧新規に出店のため賃貸契約を結んだ。
⑨従業員を一名採用した。
⑩給料を振込で支払った。
簡単に解説をします。
記帳されるものは○,ならないものは☓とします。
①他社に商品を販売する契約を結んだ。 ☓ 契約しただけでは記帳しません。
②商品の注文を受けた。 ☓ ①と同様です。
③商品を出荷した。 ○ 物,サービスの提供
④商品の代金が普通預金に振り込まれた。○ 現金や預金の移動
⑤現金で交通費を支払った ○ 物,サービスの提供,現金や預金の移動
⑥土地を購入した。 ○ 物,サービスの提供
⑦営業用の自動車を修理してもらった,代金は来月支払う予定。
○ 物,サービスの提供
⑧新規に出店のため賃貸契約を結んだ。 ☓ ①と同様です。
⑨従業員を一名採用した。 ☓ ①と同様です。
⑩給料を振込で支払った。 ○ 現金や預金の移動
5 会計帳簿以外への記録
上記②の商品の注文を受けたときですが,何も記帳しないのかと疑問に思う方も多いと思います。ここで説明している記帳とは複式簿記による会計帳簿のことです。注文を受けただけでは簿記上は取引とはなりませんので会計帳簿には記帳しませんが,これとは別にお客さんからの注文を「受注台帳」などに記録して管理しておく必要があります。