簿記の基本(8)複式簿記
今回は複式簿記のイメージが理解しやすいよう簡単な例で説明していきます。
1 現金の入出金の状況だけを記録した場合
まず最も単純な帳簿の例として現金出納帳(げんきんすいとうちょう)があります。これは現金の入金と出金を記録したもので,子供のおこづかい帳のようなものとほぼ同じと考えて下さい。
入金と出金を合わせて入出金(にゅうしゅっきん)といいます。
【現金】 入金 出金 残高
繰越金額 1000
①5/10 帳簿を購入した 100 900
②5/15 電気代を支払った 300 600
③5/16 筆記用具を購入した 200 400
④5/19 タクシー代 300 100
⑤5/20 預金を引き出した 1000 1100
⑥5/25 水道代を支払った 200 900
⑦5/27 電車運賃 100 800
現金出納帳には,日付,お金の使い道と,その金額,そして現金の残高を記帳していきます。この帳簿では,日々のお金の出入りは明確にわかりますし,今いくら残っているのかもすぐに知ることができます。
しかし,どの項目にいくら使っているのか,これだけだとすぐにはわかりません。それはどこにも書かれていないからです。
2 現金の入出金のとき経費の項目別の帳簿にも記録する
お金の動きがわかる「現金」の記録に加えて,「水道光熱費」と「文房具代」,「交通費」という項目を記帳していく3つの項目(勘定科目)について帳簿を追加して,お金を使ったごとに,こちらにも記帳していくことにします。必ず同じ金額を書いていきます。
【水道光熱費】
(日付) (内容) (金額)(合計)
②5/15 電気代 300 300
⑥5/25 水道代 200 500
【文房具代】
(日付) (内容) (金額)(合計)
①5/10 帳簿 100 100
③5/16 筆記用具 200 300
【交通費】
(日付) (内容) (金額)(合計)
④5/19 タクシー代 400 400
⑦5/27 電車賃 100 500
①から⑦の番号は現金出納帳の①から⑦に対応しています。①の例では現金で帳簿を購入していますが,「現金」の所と「文房具代」という所の2ヶ所に,同時に同じ金額を記帳していきます。それぞれの帳簿にも日付,使った内容,金額,累計を記帳していきます。こうすると,現金の動きと使い道の各項目の金額を同時に把握することができるようになります。
なお,実際には⑤の預金の引き出しについても普通預金を記録する帳簿に記帳していきます。このように,必ず複数の箇所に記帳していくのが複式簿記です。
3 複式簿記とは
上記の簡単な設例で示しましたが,複式簿記とはモノやお金(今回の例では現金)の増減(出入り)と,その要因の両方を同時にとらえて記帳していくものと考えるとわかりやすいでしょう。
このパターンに当てはまらない取引も多々ありますが,まずは取っ掛かりとして下さい。
要因は「理由」「原因」や「訳(わけ)」とやさしくとらえてもらってもかまいません。
今回の例では,「現金が減少しましたが,その訳は何でしょうか。それは電気代という水道光熱費が増えた(発生した)からです。」ということになります。文房具や交通費の例も同様です。
⑤の預金を引き出した例を考えてみましょう。この場合,預金を引き出したので手元の現金は増加しています。「現金の増加の原因は何でしょうか。それは預金の減少である。」と考えることができます。しかし反対に預金を基準にして考えると,「預金が減少した。その原因は現金増加である。」とも言えます。このようにお金やモノどうしではどちらが原因でどちらが結果なのかはっきりしませんが,これはどちらでも構わないのです。
4 例題
典型的な取引の例で少し練習をしましょう。それぞれモノやお金がどう動いたのか,その要因は何かを考えて下さい。
(ア)現金で商品を販売した。
現金が増加し,その要因は売上の増加と考えましょう。
(イ)銀行から融資を受け資金は普通預金に振り込まれた。
普通預金が増加し,その要因は借入金(かりいれきん)の増加と考えられます。
借入金が増加し,その要因は普通預金の増加であるとしても同じです。借入金はマイナスの「モノ」と考えることができます。預金引き出しの例と同様にお金やモノどうしでは因果関係ははっきりしませんが,どちらでも同じです。
(ウ)建物の修繕を行ったが,代金は来月末に支払う予定である。
未払金が増加し,その要因は修繕費の増加です。未払金は簡単に言えば借金の一種です。修繕をしてもらったので,本来はすぐに支払うべきですが,支払いを待ってもらっている状態,つまり一時的に借金をしているのと同じですね。この未払金はマイナスの「モノ」と考えることができます。